人生100年時代に
~健康寿命と予防歯科・定期検診の重要性~
はじめに
皆さん、「健康寿命」という言葉を耳にしたことはありますか?
テレビやニュースなどではよく「平均寿命」というワードを耳にすると思います。しかしながら近年、国の政策を含めて、「健康寿命の延伸」がキーワードとなっています。
WHO(世界保健機関)の定義では、平均寿命とは「0歳児の平均余命」のことを指します。一方で、健康寿命とは「日常的・継続的な医療・介護に依存せず、自分の心身で生命維持し、自立した生活を営むことができる生存期間」と定義されています。つまり、平均寿命は単に寿命の長さを表す一方で、健康寿命は「健康上の問題なく、日常生活を送ることができる期間」のことを指します。
平均寿命と健康寿命
厚生労働省の統計データによると、2019年(最新)現在で、日本人の平均寿命は男性が81.4歳、女性が87.4歳とされています。
一方、健康寿命は男性が72.68歳、女性で75.38歳となっています。
平均寿命と健康寿命の差は男性で8.7歳程、女性で12.0歳程の差があります。つまり、男性で平均8.73年、女性で12.0年間ほどは誰かの介護なしには生活できないという期間が存在するということになります。
健康寿命が高ければ高いほど、寿命の質が高いということを意味します。
つまり、病気にならず健康でいる期間が長いということになるため、結果的に医療費・介護費の削減に結び付きます。これらのこともあり、日本も含む世界各国で健康健康寿命が高ければ高いほど、寿命の質が高いということを意味します。つまり、病気にならず健康でいる期間が長いということになるため、結果的に医療費・介護費の削減に結び付きます。
これらのこともあり、日本も含む世界各国で健康寿命を高め、平均寿命に対する健康寿命の割合を高めることを目指しているわけです。
日本においても、国民の健康目標として策定される「健康日本21」の大きなスローガンに「健康寿命の延伸と健康格差の縮小」は掲げられています。人生100年時代と言われる近年において健康寿命の延伸はわが国のみならず全世界で共通の話題と言えるわけです。
さて健康寿命を延ばすことが国を挙げての大きな取り組みだということは理解していただけたでしょうか。ではこの大きな目標を達成するために、どのような具体的な目標がたてられているのでしょうか。
それは
1栄養・食生活
2身体活動・運動
3休養・睡眠
4飲酒
5喫煙
6歯・口腔の健康
と6つの項目について具体的な目標が掲げられています。
ご覧のようにお口の健康に関係しているのが1栄養・食生活と6歯・口腔の健康の2項目あります。特に歯・口腔の健康については歯科医師、歯科衛生士などの歯科医療関係者が直接関与することです。
歯・口腔の健康は社会生活の質の向上に寄与することはもちろんですが、近年、お口の健康状態と全身の健康状態には非常に深い関係があることが分かってきました。
例えば、歯周疾患と脳血管障害や冠動脈性心疾患などの動脈硬化性疾患と関連についての報告や、糖尿病や認知症との関係性についても報告があり、世界各国で研究が行われています。
お口の機能が低下し、自分で噛めなくなってくると、栄養状態に偏りが生じやすくなります。特に、お肉などのタンパク質の摂取が困難になり、低栄養の状態に陥ります。
低栄養状態が長期的に継続してしまうと全身の栄養状態がさらに悪化し、フレイル状態になってしまい、最終的には不健康や要介護の状態に近づいていくという悪循環が生じてしまいます。
ここでいうフレイルとは日本老年医学会が定義した「健康な状態と要介護状態の中間の状態」で、身体機能や認知機能に低下がみられる状態を指します。お口の不健康によって栄養状態の悪循環に入ってしまうと、フレイルから一気に要介護状態へ進んでしまう可能性が高くなります。
このように介護が必要になる状態と口腔内の状態は深く関連していて、歯科医師、歯科衛生士の社会的責任も再認識されてきているのです。
さて、ここまでの話で、健康寿命を延ばすためにお口の健康がとても重要になっていることはご理解いただけたでしょうか。
歯科疾患と予防歯科
では、具体的にどのようにお口の健康を維持していくかについて考えてみましょう。
結論から言います。お口の健康を維持するために最も大切なことは、「予防」です。
つまり、お口の中の様々な病気にそもそもならないようにするということが何よりも大切なのです。
理由はシンプルで、歯科疾患のほとんどが予防可能であり、その効果が非常に高いからです。
前述のとおり、歯科疾患と健康寿命は大きな関わりがありますが、自身の特に残っている歯の本数は、食生活や噛む力に大きな役割を果たし、健康寿命を延ばすということが日本歯科医師会の大規模研究で明らかになっています。
つまり、自分の歯を死ぬまで残しておき、自身の歯でご飯を食べることこそ皆さんが健康に生きていくために必要不可欠なことだといえるのです。こういった観点から、国は「8020運動」を推進しています。
歯を失い、お口の不健康をもたらす代表的な病気にう蝕(虫歯)と歯周疾患(歯肉炎・歯周炎)があります。
これらの病気の原因はご存じの人も多いと思いますが、お口の中の汚れ、細菌が原因です。皆さんが毎日行うであろう歯磨きはこれらの病気の原因となる細菌を撃退するのに最も有効な手段の一つなのです。
う蝕(虫歯)に対する予防処置は歯磨き、フッ化物の応用、シーラントが代表的です。フッ化物の応用とは、フッ化物での洗口やフッ化物配合の歯磨剤の使用を指します。
フッ化物、いわゆるフッ素とは自然界のあらゆる食品に含まれます。
フッ素は歯の再石灰化を促すだけでなく、再石灰化により歯の内部に取り込まれ、虫歯に対する抵抗力を高めるる働きがあります。つまり、虫歯になりにくい歯にしてくれる働きを持っています。
また、シーラントは複雑な溝をプラスチックの樹脂で埋めてしまい、歯ブラシが届きにくい所をなくして、汚れがたまりにくくなるようにしてくれるものです。
特に小児期に有効です。小児期では、歯が生えたての場合が多く、生えたばかりの歯は十分に硬さが成熟していなく、溝も複雑な傾向があります。加えて、自身での歯磨きも不十分になりやすいため、シーラントによる虫歯予防が子供のころだけでなく、大人になってからも有効になります。
次に歯周疾患に対する有効な予防方法は何なのでしょうか。
ズバリ、家での歯磨きとデンタルフロスや歯間ブラシといった補助道具による歯と歯の間の部分の清掃です。歯周疾患は歯肉炎と歯周炎の2つに分けられます。
歯肉炎はいわゆる歯肉の炎症のことです。歯肉炎の状態を長期間放置しておくと、歯を支える骨(歯槽骨)が溶かされ、次第に歯がグラグラし、最終的には抜けてしまう病気です。
この歯周疾患の一番怖い所は、痛みを感じることが少ないという点にあります。虫歯と違い、ほとんどの場合、痛みを感じることなく、ゆっくりと病気が進んでいくため、歯がグラグラするという症状を訴える時にはすでに、重要な場合が多くあります。
だからこそ、普段の口腔ケアが重要になってくるのです。これらの歯周疾患も原因は口の中の細菌です。普段からよく歯磨きを行うことで十分に予防することが可能になります。
しかし、歯磨きだけでは不十分です。デンタルフロスや歯間ブラシによって、歯と歯の間の汚れをしっかり落とすことで、初期の歯肉炎を予防することができるのです。
このように代表的な歯科疾患について、予防処置が非常に重要になっていることがわかっていただけたでしょうか。
皆さんの中には「自分はもう虫歯になっているし、その歯も治療しているから大丈夫」とか「家で歯磨きもデンタルフロスもしているし、歯茎の病気も心配ないよ」と思う人もいると思います。そんな皆さんに一言。「それ意外と危険です。」というのも、虫歯を治療しても詰め物の僅かな隙間から虫歯菌は入り込む可能性があり、家で歯磨きや補助道具を使っているからと言って、ちゃんと汚れを取り除けているかはわかりません。
また、歯科医院で使う特殊な道具を使わないと取れない汚れもあります。だからこそ、歯科医院での定期検診が大きな意味を持ってきます。
虫歯の予防
歯周病の予防
定期的な歯科検診
定期検診では、虫歯や歯周病の確認はもちろん、患者さまそれぞれのお口の特徴に合わせた歯磨きの方法についても教わることができます。
また、定期的に撮るレントゲンで、銀歯などの詰め物の下にある虫歯、骨の状態や根っこの病気を観察することで、病気の早期発見・早期治療に役立ちます。
是非とも月に1回、少なくとも3ヵ月に1回の歯科医院での定期検診を行うことで、病気予防、重症化予防に努めるようにしてみてください。
歯のクリーニング
まとめ
日頃使っている歯を一生使うために、予防処置・定期検診は非常に有効な手段です。
歯が一生涯あるということはそれだけで健康につながり、長い間日常生活を不自由なく送ること、つまり、「健康寿命の延伸」に欠かせません。定期検診についてお気軽にご相談ください。皆さんの健康寿命を全力でサポートいたします。