2025年11月26日 2025年11月26日
Q
入れ歯の隙間
何とかなりませんか?
A
入れ歯を作製して、日数が経つと入れ歯と歯ぐきの間に隙間が生まれてきます。これは自然現象といえば自然現象で、噛めない合わない入れ歯を装着しているとこの現象が増加します。
このような患者さんを噛める状態に仕上げた症例で解説します。
患者さんのプロフィール
患者さんの背景
年齢
76歳
性別
女性
全身状態
高血圧(服薬でコントロール)
口腔状況の経過
- 10年前にすべての歯を失い、総入れ歯に
- これまでに 3つの総入れ歯を作製
- 最新の入れ歯は 3年前に制作
- 半年前から入れ歯にヒビ → 修理を繰り返し
- その後から入れ歯が不安定になり、シーソーして痛い
- 他院で裏打ち(リライン)、部分調整を数回受けたが、改善せず
なぜ「隙間」ができて
噛めなくなるのか?
総入れ歯でよくある原因をこの方に当てはめると、次のような可能性が高いです。
① 修理や裏打ちを重ねたことで、
入れ歯底面が複雑に
何度も修理すると、以下などが積み重なり、正しい吸着が失われやすくなります。
- 厚みが不均一
- わずかな段差
- 正確でない粘膜面
特に総入れ歯は「密着がすべて」。ほんの少しズレるだけで、シーソーし、痛みが出ます。
② 顎の骨が痩せてしまった可能性
総入れ歯になって10年。骨は年々吸収され、形が変わります。
そのため昔の入れ歯が今の顎に合わなくなるのは自然なことです。
③ 噛み合わせ自体が狂っている
入れ歯にひびが入ったり、部分的なリラインを重ねると、噛み合わせが左右でズレたり、高さが失われたりします。
噛み合わせがズレると
以下の症状が生じます。
- 痛い
- 外れやすい
- シーソーする
結論:今の入れ歯を
“修理し続けても”改善は難しい
このケースは入れ歯本体の設計・噛み合わせ・粘膜面すべてが不安定になっている可能性が高いため、以下の治療では症状は改善しづらいと考えられます。
- 裏打ちを追加する
- 小手先の調整をする
最も効果的な治療方針
① 顎の状態をCTで評価
以下により痛みの原因や吸着を妨げている要素を精密に分析できます。
- 骨の高さ・幅
- 粘膜の厚み
- 敏感な部位の特定
② 噛み合わせの再構築
現在の入れ歯の、高さ、水平バランス、上下の噛み合わせ位置をチェックし、正しい高さに戻す必要があります。
噛み合わせが再現できなければ痛みは消えません。
③ “完全に新規で”
総入れ歯を作り直す
このケースは根本的に新しい入れ歯をゼロベースで作ることが最適です。
理由は以下の通りです。
- 修理跡が多い入れ歯は
精密な適合にならない - 顎の形が変わっている
- 噛み合わせの崩壊を
一度リセットする必要がある
④ 完成後も1ヶ月・3ヶ月・6ヶ月の
調整が必須
総入れ歯は、顎の変化、粘膜の馴染み、噛み締め癖により、必ず微調整が必要です。
調整こそが噛める総入れ歯を完成させる最重要ステップです。
患者さんへのメッセージ
この方のように「何度も修理した総入れ歯」 「裏打ちを重ねている総入れ歯」では、根本から作り直さないと問題が解決しないことが多いです。
しかし、適切に診断し、噛み合わせを再構築して作れば、シーソーしない安定した総入れ歯は十分に作れます。
お口の中評価
正面観
赤丸の部分を切歯乳頭と呼びます。
この切歯乳頭がこの位置に見えるということは、前歯の骨がかなり吸収していることになります。この場合、上下の顎の関係や前歯をどのように並べるかをしっかりと確認する必要があります。
緑丸の部分は、高い山になっています。予想としては、1番最後まで天然の歯が残っていた場所だと思います。
上あごも向かって右側が最後まで歯が残っていた箇所だと思います。やはりこの部分は、スペースもなくどのように噛ませるかをしっかりと考えて入れ歯作製をしなければなりません。
上あご・下あご
赤丸は、切歯乳頭と呼びます。
この切歯乳頭よりも前に前歯が並びます。
緑丸の部分は、傷になっています。入れ歯がシーソーすることにより粘膜に傷ができたと思います。
傷ができる位置も正中口蓋縫合を中心が多いが、少し向かって右寄りなので、左側の噛み合わせに何らかの問題があるのかも知れません。
レントゲンの評価
左側の顎関節が、右側に比べて奥に押し込められている状態、右側の顎の赤矢印部分が1番骨の吸収している部分になります。
左側の青矢印は、骨が1番残っている部分になります。
お顔の評価
正面
上の入れ歯の前歯が長いので、下唇に当たっているように思います。女性の場合は、口紅をつけると上の前歯に口紅がついてしまいます。
左の唇が中に入っているように見えますので、入れ歯の膨らみが足りないのか?下の歯の並んでいる位置が内側なのかもしれません。
斜め
やはり、笑っときに上の前歯がもう少し見えた方が、美しいですね。鼻した部分の膨らみがもう少しあったほうが、若く見えると思います。
拡大 横向き
横から見た際も鼻下がまっすぐで膨らみが少なく思えます。笑った際も上の前歯の見え具合が少ないです。
入れ歯の治療結果
入れ歯正面写真
古いの入れ歯は、上の前歯が下の前歯に多いかぶさっています。
これですと入れ歯が前後左右に動きにくいですので、入れ歯の動きのバランスが悪く痛みや骨の吸収につながります。
新しい入れ歯は、下前歯がたくさん見えます。つまり、上の入れ歯の前歯を上に上げて入れ歯が前後左右に動かしやすい入れ歯としました。
古い入れ歯
新しい入れ歯
上あご外面写真
赤丸:入れ歯の大きさ・長さが反対に比べて短い?小さいです。完成した義歯は、左右入れ歯の長さが同じです。
青線:歯の並びが左の方が長いの左右アンバランスで左の入れ歯の歯が短いです。新しい入れ歯は、左右の歯の並びも長さも同じです。
緑丸:入れ歯が割れて修理した箇所があります。ということは、入れ歯に隙間があり、そこを支点にして入れ歯に力が加わり割れていることが予想できます。この入れ歯の隙間は、噛んで入れ歯いるほど骨が吸収する事により、シーソー現象が起こり隙間ができて割れてしまいます。このシーソー現象は、噛み合わせにも起因します。左右の噛み合わせがバランスよく噛めていないとシーソーが起こります。なので定期検診で噛み合わせのチェックが必要になります。
古い入れ歯
新しい入れ歯
上あご内面写真
赤丸:古い入れ歯は、スペースがあり入れ歯がカタつくので白い軟質裏装材を用いて治療を行った後がみられます。これが患者さんがおっしゃっている入れ歯の隙間になります。
一度吸収した骨は、元に戻らないので隙間ができてしまうと入れ歯がシーソーします。
新しい入れ歯は、内面を精密に型採りしていますので粘膜にピタッと吸い付くように完成しています。
青線:線に注目すると左側が短く、左右均等に作られていないのが分かるかと思います。新しい入れ歯は、左右均等になるように入れ歯を製作しています。できれば入れ歯は、左右均等に作られた方がバランスを保ちやすいです。入れ歯が安定するには、左右のバランスが基本となりますね。
古い入れ歯
新しい入れ歯
下あご外面写真
赤丸:入れ歯の長さが短い。古い入れ歯は、左右で後縁の長さが違います。
やはりできれば左右の入れ歯の長さは、同じ方がバランス取れた入れ歯になりますね。
バランスが取れた入れ歯の方が、噛みやすいのは皆さんも想像できるかと思います。
左右のバランスが取れた入れ歯は、噛みやすいです。
青線:舌側の左右ライン長さが違う。
以前の入れ歯は、入れ歯の内側の長さも大きく違うのでバランスが悪く見えます。新しい入れ歯は、左右均等とまではいきませんが、ある程度バランスがとれているように見えます。バランスが良いと入れ歯に適切な噛み合わせを与えることができます。
古い入れ歯
新しい入れ歯
下あご内面写真
赤丸:下あごの入れ歯も軟質裏装材で裏打ちして治療した後があります。特に赤丸の部分は白い材料が多く見えます。
しっかりと隙間を埋めてピタッとした入れ歯を作製する必要がありました。
新しい入れ歯は、内面がピタッとなるように専用のトレーを作製して型を採っているので隙間がありません。
緑丸:緑の丸の部分が異様に膨らんでいるように見えます。骨の吸収が大きいのでしょうか?
下あごの入れ歯は、左側が大きく右側が小さくアンバランスに見えます。お口の中の骨の吸収具合が、入れ歯にきちんと反映されているならば、それで良いのですが、、、どうも違和感を感じます。
新しい入れ歯は、骨の吸収している部分は入れ歯で補い、骨の吸収が弱い部分は入れ歯を薄く仕上げています。
古い入れ歯
新しい入れ歯
右側入れ歯写真
古い入れ歯は、前歯が内方に入っています。これですと入れ歯の上下左右の動きを阻害してしまいます。
また、奥歯の並びも逆吊り橋上になっており、噛める入れ歯と反対の歯の並びになっています。
そもそもですが、入れ歯の歯並びが噛み合わせに大きな影響を与えるので、ここはこだわって歯を並べた方が良いです。
新しい入れ歯は、まずは前歯を真っ直ぐにして、入れ歯が上下左右に動かしやすいように変更しています。
また、奥歯の歯並びも逆吊り橋上にならないように、噛み合う面に真っ直ぐ歯を並べています。これにより上下の入れ歯が噛み合わせた際にピタッと噛める入れ歯が出来上がります。
古い入れ歯
新しい入れ歯
左側入れ歯写真
古い入れ歯の赤矢印は、上の歯と下の歯の噛み合わせがつぶれており、下の奥歯がほとんど見えません。
新しい入れ歯は、上下の歯がしっかりと見えてます。噛み合わせもつぶれていません。これだと上下の歯でしっかりと噛めます。
古い入れ歯
新しい入れ歯
入れ歯後方写真
古い入れ歯は、後ろから見たさいに上あごと下あごで流れが悪いです。どこかに歪みがあるように見えます。
新しい入れ歯は、上下の入れ歯の流れがよく上下でバランスよく噛めそうです。
古い入れ歯
新しい入れ歯
新しい入れ歯噛み合わせ調整後写真
上あごの舌側の噛む面がしっかりと印記されています。
私は臼と杵の関係で噛み合わせを調整しますので、下あごが臼で上あごの舌側が杵の関係性を保つように調整していきます。
この状態を維持するために、定期的に歯科医院を今後も受診してもらいます。
入れ歯費用
| 費用分類 | 費用 |
|---|---|
| 総入れ歯保険外(自費) | 1,100,000円 【内訳: 550,000円×2個 (上下入れ歯)】 |
| コピー入れ歯費用 | 22,000円 【内訳: 11,000円×2個】 |
| ピエゾグラフィー | 22,000円 |
| ゴシックアーチ | 16,500円 |
| 顎のレントゲン(CT) | 16,500円 |
| 咀嚼能力試験 | 5,500円 |
※全て税込です
入れ歯治療を受ける方への大切なお知らせ(注意事項とリスク)
入れ歯治療では、より快適に使っていただくために、いくつかご理解いただきたい点があります。
- 同じ治療工程を複数回行う場合があります
精度を高めるため、型取りなど同じ工程を複数回行う場合があり、その際は別途費用が発生することがあります。
- 人工歯の色・形の変更は追加費用がかかります
入れ歯完成後に、人工歯の色や歯並びの変更を希望される場合は、追加料金が必要となります。
- 入れ歯は「完成=すぐ快適」ではありません
痛みや噛み合わせを安定させるには複数回の調整が欠かせません。最低でも装着後24時間以内、1週間後、1ヶ月後の調整が必要です。
その後も、噛み合わせや粘膜の変化に合わせて1~6ヶ月ごとの調整を行います。 - ナイトガード(夜用の装置)の使用をお願いする場合があります
部分入れ歯の方は、夜の歯ぎしり・食いしばりで残っている歯を守るため、ナイトガード(ナイトデンチャー)の使用をお願いすることがあります。
- 1回で完璧に至らない場合があります
入れ歯は非常に精密な治療です。
まれに、作り直しが必要になる場合がありますので、ご協力をお願いいたします。 - CT撮影(16,500円)が必要な場合があります
顎の骨や入れ歯との関係を詳しく確認するため、断層撮影(CT)を行う場合があります。
- 古い入れ歯のコピー作製を行うことがあります(8,800円)
現在使用している入れ歯の形を参考にするため、コピーした模型を作ることがあります。
- 咀嚼能力試験(5,500円)をお願いする場合があります
現在の噛む力を評価し、入れ歯作製の参考にさせていただくことがあります。
- 定期検診が必要です
入れ歯・粘膜・顎の状態を維持するため、最低でも半年に一度の定期検診・調整をお受けください。
- 他院やご自身での調整は保証対象外となります
当院で作製した入れ歯を、他院で調整された場合やご自身で削ったり改造した場合は、保証対応ができませんのでご注意ください。
- 指示に従っていただけない場合、治療をお断りすることがあります
安全で適切な治療のため、歯科医師やスタッフの指示に従っていただけない場合は、治療を継続できなくなることがあります。
まとめ
入れ歯の隙間が気になる方へ
「入れ歯が浮く」「隙間ができて噛めない」というご相談で来院される患者さんはとても多いです。しかし、この“隙間”には必ず理由があります。
隙間ができる原因を
見極めることが最重要
入れ歯が壊れたから、とりあえず新しく作り直す…。実は、この方法ではうまくいかないことが多くあります。
大切なのは、なぜ隙間ができてしまったのか?原因を正しく見極めることです。
- 噛み合わせの変化
- 顎の骨の吸収
- 入れ歯の支えとなる歯の揺れ
- 入れ歯の設計の問題
これらのどれか、または複数が原因になっていることがあります。
原因がわからないまま作り直しても、同じトラブルを繰り返してしまいます。だからこそ、まずは精密な診査と設計が必要なのです。
入れ歯完成後も
「定期メンテナンス」は必須です
「入れ歯なのに、歯科医院に定期的に通う必要があるの?」と驚かれる方もいらっしゃいます。
ですが、実は 入れ歯こそメンテナンスが欠かせません。
ちょっとした変化で
噛み合わせはすぐズレる
お口の中は常に変化しています。
- かみ合わせの微妙なズレ
- 歯ぐきのわずかな変化
- 残っている歯の動き
- 入れ歯の摩耗(特に保険のプラスチックの歯は摩耗しやすい)
このような小さな変化でも、入れ歯のバランスが崩れると、急に痛みが出たり、噛めなくなることがあります。
入れ歯は「テクニックに左右される
繊細な治療」です
入れ歯は非常にデリケートで、少しのバランスの乱れが大きな不具合につながるテクニックセンシティブな治療です。 だからこそ、完成して終わりではなく、定期的な調整・検診がとても重要です。
田中 健久
Takehisa Tanaka
入れ歯なんでも相談室をご覧頂きありがとうございます。渋谷にて開業して20年以上経ち、多くの患者さまにご来院頂いたことを感謝申し上げます。
私は、日本補綴(かぶせ物・入れ歯)歯科学会と日本口腔インプラント学会の両方の専門医を取得しています。そのため入れ歯とインプラント両方の専門医として皆さんの相談に答える事ができます。両方の学会の専門医を取得している歯科医師は、非常に稀です。
よくインプラントは良くない!入れ歯は噛めない!などとおっしゃりますが、私の意見としては、それぞれ利点・欠点があり、患者さまによって全然違います。なのでそれぞれ自分に合った治療方法は、何かを理解した上で治療方針を決定すべきだと考えております。
両サイドから相談にのる事ができますので、どうぞお気軽に相談してください。
【所属学会・資格】
- 日本補綴歯科学会 専門医
- 日本口腔インプラント学会 専門医
- 日本顎咬合学会 咬み合せ認定医
- 日本歯周病学会
- 日本臨床歯周病学会
- *スタディグループ
- 5DJapan-DentureCourseSaporter
【経歴】
- 1999年:岩手医科大学卒業
- 2004年:東京医科歯科大学大学院卒業
- ニューヨーク大学インプラント審美卒後研修修了
- ペンシルバニア大学卒後研修修了
- テンプル大学大学最新歯科治療コース修了
- ブカレスト大学医学部インプラント科卒業
- ハーバード大学インプラントプログラム修了
- いいやま歯科医院:勤務
- 青山通り歯科タナカ:院長
- 渋谷歯科タナカ:院長
- 医療法人社団まる歯:理事長