虫歯とプラークコントロール | 渋谷歯科 | 平日夜7時半・土日も診療の渋谷の歯医者

虫歯と歯周病の原因と対処法について

はじめに

虫歯と歯周病は、多くの方が患う歯の病気です。
この2つの歯の病気に関し、多くの患者さまが間違った情報や知識をお持ちのことがあります。

時代は令和になり、虫歯や歯周病に対する様々なことが解明されてきました。
しっかりと原因と対策を学び対処することで、虫歯や歯周病を防ぐことができるようになります。ここで正しい知識へとアップデートしましょう。

虫歯の原因

虫歯の原因菌は、ミュータンス菌などと呼ばれる細菌です。この細菌により歯が溶けてしまう病気が虫歯です。しかし、細菌だけでは、虫歯になりません。
虫歯は、「ミュータンス菌」・「糖質」・「歯の質」の3つの条件が揃うことで、初めて虫歯になり、これに「時間」が加わると進行します。つまり3つの内、1つでも欠けたら虫歯にならず、進行しないということになります。
そして、3つの内の1つを欠けさせるのが、予防歯科です。

虫歯の原因

ミュータンス菌

ミュータンス菌の大きさは、1μmです。本当に不思議ですが、歯の内部の象牙細管の大きさが1μmですので、ちょうど入らない大きさになっています。
では、どのように虫歯が進行するのかというと象牙細管の管を溶かして進行します。

ミュータンス菌が歯垢(プラーク)となって歯の表面に付着します。付着したミュータンス菌は、糖を食べて酸を出します。その酸が歯の表面を溶かします。

虫歯は、ミュータンス菌による細菌感染ですので、この細菌の数を減らすことが大前提となってきます。

糖質

糖質(砂糖)は、できるだけ摂取しないように心がけていても、多くの飲食物の中に含まれています。飴やガム、ドリンク以外にもお米やパン、果物にも含まれているものもあるため知らず知らずのうちに摂取していると思います。
スポーツドリンクを飲んでいると虫歯になりやすいという報道を耳にしますが、糖質を多く含むスポーツドリンクを飲んで長時間そのままにしていると虫歯になりやすいです。
お口の中に糖質が長時間含まれる状態や時間をいかに少なくできるかが重要なポイントになります。

歯の質

歯にも質があり、人によって違いがあります。これは持って生まれたDNAによるもので、背が高い・低い、体重が重い・軽いなど人それぞれ特徴があるように歯の質も歯が柔らかい・硬い、溶けやすい・溶けにくいなど人それぞれです。
また不思議なもので虫歯菌に強い方は、歯周病菌に弱いという特徴があります。なので油断大敵です。虫歯にならないからといって、歯科医院の定期検診でクリーニングを受けていなければ歯周病が知らない間に進行していることもあります。

令和の常識?!虫歯の原因菌は?

昭和時代、虫歯の原因は、砂糖とミュータンス菌といわれていました。
しかしその後、例えば、ミュータンス菌の他にラクトバチラス菌(乳酸菌飲料に多く含まれる)も強い酸で歯を溶かすことが明らかになり、令和の今では、他にも歯を溶かす菌が続々と仲間入りしています。
ビフィズス菌・スカルドビア菌・アクチノマイセス属・ベイヨネラ属・アトボビウム属などが虫歯を発生させることが明らかになっています。ビフィズス菌?ヨーグルト?と思われる方もいるのではないでしょうか。

虫歯の原因は砂糖だけ?

昭和時代は、虫歯の原因は砂糖(ショ糖)と考えられていました。
しかし令和の今では、発酵性糖質(ショ糖、ブドウ糖、果糖、乳糖、調理デンプン)を摂取した虫歯原因菌が酸を出し、歯を溶かすと考えられています。

虫歯原因菌に対する善玉菌がいる?

昭和時代は、虫歯菌を攻撃する善玉菌がいることが解明されていませんでした。
しかし、令和の今では、う蝕原因菌を攻撃する抗菌物質(過酸化水素、バクテリオン)を産生する善玉菌やアンモニアを出して酸を中和する善玉菌が存在することが明らかになっています。

虫歯原因菌の母子伝播は避けるべき?

昭和時代、虫歯原因菌は「感染の窓」と呼ばれるおおよそ1歳7ヵ月〜2歳7ヵ月の期間に両親から伝播するといわれていました。
虫歯予防には、まず母子伝播を避けることが考えられ、母子が食器を共用しないことにより大人の唾液が幼児の口腔内に入らないようにすることがもっとも大事なことでした。

しかし令和の今では、そこまで神経質になる必要はないと考えられています。その理由は次のとおりです。

出典元

虫歯は、遺伝もある?

前述のとおり、虫歯の発生は、keyesの輪(細菌、糖質、歯の質、時間)とされていましたが、令和の今では唾液中の細胞片に含まれるゲノム遺伝子の解析によって、虫歯リスクに関与する遺伝子が多数報告されています。

虫歯は、治るの?

昭和時代は、削って詰めれば完治とされていました。
令和の今では、虫歯は治るものではなく、虫歯治療とは虫歯ができた歯を修復することと考えられています。そして虫歯の原因菌は口腔内常在菌であるため、虫歯ができる環境にならないように口腔内を管理することが重要です。

落としやすい歯垢(プラーク)落としにくい歯垢(プラーク)

昭和時代は、歯垢(プラーク)が歯ブラシで落としやすいものとそうでないものがある理由が解明されていませんでした。
令和の今では、細菌が産生する菌体外高分子物質は、歯垢(プラーク)のマトリックス(基質)として微生物を包み込み、歯面に固く付着し、酸を内包することが明らかになっています。
ミュータンス菌が作る不溶性グルカンもマトリックスの一種ですが、その成分は様々あり、その全容はまだ解明されていません。

虫歯の人は、減っている?

昭和40~50年頃(1970年前後)に子供の虫歯が日本中にまん延し、虫歯の洪水と呼ばれていた時代がありました。
平成になって虫歯は、減ったといわれるようになり、 令和に入り未成年の虫歯の数は、確実に減りました。成年の虫歯の数は、実は、あまり変わっていません。

虫歯予防に最も効果があるのは?

昭和時代は、虫歯はプラークが作り、虫歯予防は、歯垢(プラーク)を除去するブラッシングがもっとも効果的だと考えられてきました。
しかし、令和の今に至るまでにブラッシングの虫歯予防効果について多くの研究がされ、もっとも効果的とは実証されませんでした。一方、フッ化物応用とシーラントは、虫歯予防効果が認められ、次いで食事のコントロールも効果が高いと示されました。
そのため、歯ブラシ+フッ素応用が現在もっとも効果的と考えられています。

食後30分は、歯磨きしてはいけない?

食後すぐに歯を磨くと、食事中に表層脱灰されたエナメル質を傷つけるため、唾液による再石灰化で表層脱灰が修復されるまで30分時間をおいたほうが良いという報道がありました。
しかし、これはもともと酸蝕症の患者さまに関することであり、酸蝕症ではない方は、食後すぐの歯磨きが1番効果的です。

歯ブラシの後は、ゆすがないって本当?

昭和時代は、歯を磨いたら歯磨き粉の味がしなくなるまで、しっかりとゆすぐことが当たり前でした。

しかし令和の今では、歯磨き粉に含まれるフッ化物の効果を最大限に発揮させるためにも、あまりゆすがないことが推奨されています。
スウェーデンのイエテボリ大学でも、歯磨き後はゆすがないことを推奨しています。

キシリトールは、虫歯予防に効果ある?

昭和時代にキシリトールは、虫歯予防に効果があると考えられていました。ところが、2015年の研究(※1)によると、キシリトールは、虫歯予防に効果があるというエビデンスは十分とはいえないと判定されました。
そのため、キシリトールは、虫歯の原因にならない甘味料であり、令和の今では、それ以上の虫歯予防効果は不明とされています。

虫歯の予防

※1引用元

牛乳は、歯に良くないの?

母乳も牛乳も発酵性糖質を含んでいるものの、共にエナメル質に対するう蝕原生は低いとされています。
母乳や牛乳には、再石灰化に必要なカルシウムや緩衝能、抗菌作用を有するタンパク質も多く含まれています。

高齢の方への虫歯予防?

高齢の方への虫歯予防として重要なことは、1にも2にも根面カリエスへの対処です。もし見た目を気になさらないのであれば、積極的にサホライドを塗布しますし、フッ化物を用いた予防を積極的に行います。また、高齢者こそ電動歯ブラシの利用が推奨されています。
歯磨き粉は、市販品の中で高濃度のフッ素1450ppm配合の商品をおすすめします。

尚、歯科医院で塗布するバトラーフローデンフォームNは、9000ppm配合のもので、濃度が高い分持続性があるといわれています。3ヵ月に一度程度の定期検診で虫歯を予防しましょう。

当医院で取り扱いがある、フッ素1450ppm配合の商品

メルサージュ ヒスケア

フッ素1450ppm配合の他、知覚過敏症状予防にも効果的な成分が配合されている歯磨き粉です。

引用元:メルサージュ ヒスケア

Systema SP-T ジェル

フッ素1450ppm配合の他、歯周病の発症予防にも効果的な成分が配合されている歯磨き粉です。

引用元:Systema SP-T ジェル

歯周病の原因

書いて字のごとく歯の周りの骨や歯肉の病気を歯周病と呼びます。30歳以上の方の80%が何らかの歯周病に罹っている(※2)といわれています。1番大切な治療は、「予防」になります。

※2引用元:厚生労働省e-ヘルスネット

歯磨きで落としきれなかった歯垢(プラーク)が歯の周りに付着したまま蓄積すると細菌の塊(バイオフィルム)となります。
このバイオフィルムが蓄積すると石のように硬くなって歯ブラシでは取り除くことができない歯石となります。
以前まで歯石が歯周病の原因といわれていましたが、実はこのバイオフィルムが原因です。これを取り除かないことには、歯周病の改善にはつながりません。

歯周病

細菌の塊(バイオフィルム)の何が問題?

昭和時代には、プラークと呼ばれていたバイオフィルム(細菌の塊)ですが、その量が問題だろうと考えられていました。 
しかし令和になった今ではバイオフィルムの質が問題だということが明らかになりました。バイオフィルムの中に潜む細菌の質により、病原性が高いか、低いかが変わります。

歯周病の原因菌は?

昔、歯周病の原因菌は、10種類の歯周病原性菌といわれていました。
しかし令和になった今、歯周病の原因菌は、レッドコンプレックスと呼ばれる3つの菌だということも明らかになりました。

  1. 1.P.gingivalis
  2. 2.T.forsythia
  3. 3.T.denticola
    通称:レッドコンプレックス

その一つ歯周病菌は、血が大好物なので、我々は歯肉の中に潜む吸血鬼と呼んでいます。
歯を磨いて出血される方は、非常に注意が必要です。プロフェッショナルケアでは、主に吸血鬼を極力少なくするケアと出血を少なくするケアが必要です。

このレッドコンプレックスは、歯垢(プラーク)の中に存在し、歯周病菌の中でも3つの親玉菌がいます。
大親分がP ジンジバーリスで、兄貴分がT フォーサイシア、弟分がT デンティコーラとわかりやすく短く名前がついています。これらの細菌は、歯の周りの骨を溶かすだけでなく、脳疾患・心疾患・糖尿病を引き起こす非常に危険で恐ろしい細菌です。
今後もこのレッドコンプレックスをお口の中に感染させない、増やさないことが1番の歯周病予防になります。

歯周病菌の王様は?

歯周病菌界のボスです。
絶対王者のP.Gingivalisは、歯周病菌のピラミッドのトップに君臨しています。血が大好きで血を栄養素として、内毒素を吐き出し、歯の周りの骨をどんどん溶かします。

歯周病菌は、ピラミッド構造?

歯周病細菌の世界はレッドコンプレックスを頂点とする階級社会になっていて、このピラミッドが成り立つには、お口の中に善玉菌やその他様々な菌が必要になります。 歯周病を進行させないためには、、レッドコンプレックスをはじめ、菌をなくすことが重要です。

歯周病になりやすいのは遺伝?

昭和時代は、歯周病は遺伝じゃないか?といわれていました。確かに歯周病になりやすい体質の方は、います!
それは風邪を引きやす人、引きにくい人がいるのと同じで、宿主感受性の違いによるものです。しかし、そのメカニズムは遺伝なのか、どうなのかは、わかっていません。

宿主感受性の高い方は、同じ歯周病菌に感染して強い炎症や骨吸収を起こしますが、宿主感受性の低い方は、同じ歯周病菌に感染しても症状が軽い方もいます。これを見極める必要があります。

鉄分がないと歯周病は発症しない!

レッドコンプレックス(特にP.gingivalisには、栄養素として鉄分が不可欠です。
P.gingivalisは、ヒト血液中のヘモグロビンからヘミン鉄を手に入れます。つまり歯周ポケット内に出血がなければ、悪さができない状態となります。そして、出血がなければ歯周病は、進行しません。

そのため、歯を磨き、歯に付着した汚れを落とし、清潔な状態を保つことが歯周病の発症を抑えることにつながります。

歯磨きした際に、歯茎から出血が出る場合は、かなり要注意です!出血があった場合は、歯科医院を受診してチェックしてもらうこと、効果的な歯磨き方法の習得が重要になります。
そのまま放置しておくとP.gingivalisが歯の周りの骨を溶かすことになります。

歯周病の歯ブラシ

昭和の頃は、とにかく細菌の塊(バイオフィルム)の量を減らせと一生懸命に歯を磨き、染め出した液が全部消えるまで、歯を磨くことが基本でした。
しかし、令和になった今では、細菌の塊(バイオフィルム)の菌叢と病原性には個人差があり、人によってブラッシング方法や時間が異なることが明らかになっています。
確かにPCRの数値を20%代に持っていくことも重要ですが、その人その人にあったブラッシング法が、令和の歯ブラシ法になります。

歯周病は、ほぼ歯間部から罹患します。咬合面や頬側面から歯周病が起こることはほぼありません。
なので、歯間部へいかに上手く歯ブラシの毛先を入れるかが重要なポイントです。歯に対して斜めに毛先を当てると上手く歯間部に毛先が入ります。

細菌の塊(バイオフィルム)の感受性が高い人は、わずかな磨き残しでも大きな危険因子になりやすいので、磨き残しを少なくする必要があります。

抗生物質で歯周病は治せるの?

残念ながら、治すことはできません。
抗生物質を服用することで、歯周病菌の活動を止めることが可能ではないか、といわれたこともありました。しかし、休眠していない細菌への効果は期待できても、服用期間が終わって休眠細菌が活動し、増殖すると抗生物質服用前の細菌数に戻ってしまうことが明らかになりました。
抗生物質による効果は、一時的なものであり、治癒につながるものではありません。

歯周病って治るの?

マウスリンスやうがい薬は、効果ある?

マウスリンスの効果には、限界があります。
レッドコンプレックスは、酸素が嫌いなので歯肉の中に隠れています。マウスリンスは、歯肉の中まで浸透するものではないため、浮遊している細菌には効果が期待できても、歯肉の中には効果がありません。
なのであくまでも補助的な効果しかないと思ってください。

モンダミンのハビットプロは、洗口剤の中で、唯一レッドコンプレックスを殺してくれるらしいです。ハビットプロは、歯科医院専売になりますが、レッドコンプレックスを殺菌してくれるのは、非常にありがたいですね。

引用元:モンダミン ハビットプロ

令和の歯科治療は、生涯メンテナンス

「削る・詰める・被せる・抜く・埋める」から「守る」の予防歯科へパラダイムシフトが起こっています。歯は、削れば削るほど歯を失う可能性が高くなるという点では、誰もが賛同しているのではないでしょうか?

痛くなってから歯科医院に通う時代はすでに終わり、痛くなる前に定期検診とクリーニングを受ける時代です。

参考文献:天野敦雄 久保庭雅恵(2023).『あなたの知識は最新ですか?歯科衛生士のためのカリオロジーダイジェスト』.クインテセンス出版
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