歯周病と全身疾患 | 渋谷歯科 | 平日夜7時半・土日も診療の渋谷の歯医者

歯周病と全身疾患

はじめに

令和4年度の歯科疾患実態調査で歯周病の症状である「歯肉からの出血がある人」は、全世代で約4割を占めることが判明しました。

また、歯周病は歯を失う原因の第一位に位置し、歯周病を予防することが歯を長持ちさせるためには非常に重要だということがわかります。
これに加えて、近年歯周病と全身疾患の関係が明らかになってきました。
今回は、歯周病の原因や予防方法、歯周病と全身疾患の関連について解説します。

歯周病とは?

歯の周りには、歯周ポケットと呼ばれる溝が存在します。
お口の中の清掃が行き届いていないと、プラークが歯周ポケットに溜まり炎症が起きます。この状態を歯周炎といいます。

歯ぐきの炎症が歯を支える歯槽骨にまで広がると歯槽骨が溶けます。
この状態のことを歯周病と呼びます。
歯周病の症状としては、歯ぐきの腫れや出血、歯のぐらつきがあります。
歯周病の診断は、歯周ポケットの深さや検査時の出血などから診察します。

歯周病の検査にはプローブと呼ばれる針状の器具が使用され、これを歯周ポケット内に入れることで歯周ポケットの深さを測ります。
正常の歯周ポケットは3mm未満ですが、歯周炎や歯周病が進行すると4mm以上と深くなります。

歯周病について

歯肉炎・歯周病の原因

次に歯周病の原因について説明します。

口腔内の清掃不良

お口の中の清掃状態が悪いとプラークが歯に付着します。プラークは、細菌の塊で歯周病の原因となる菌も含まれています。
ブラッシングの習慣がない人や歯並びが悪く磨き残しが多い人などは歯周病になるリスクが増加します。

口腔乾燥がある

唾液には、抗菌作用やお口の中の汚れを洗い流す作用があります。
お口の中が乾燥すると、唾液による自浄作用が行われないため、細菌が増殖しやすくなり、歯周病になるリスクが増加します。

唾液が少ないと口臭を引き起こす?

喫煙習慣がある

喫煙習慣があると歯周病になるリスクが増加します。
タバコにはニコチンが含まれており、ニコチンには血管を収縮させる作用があります。
この作用により、血液から歯周組織に十分な栄養が行き渡らなくなります。
その結果、歯周病菌に対する抵抗力が低下し、歯周病になりやすくなります。

妊娠

妊娠中は、エストロゲンやプロゲステロンなどのホルモンが増加します。
これらのホルモンの影響で歯周病の原因菌が増加しやすくなり、歯肉炎になるリスクが増加します。
妊娠が原因で起こる歯肉炎のことを妊娠性歯肉炎といいます。

歯周病と全身疾患

歯周病は、さまざまな全身疾患と関連があるといわれています。
以下では、歯周病と関係する全身疾患について説明します。

糖尿病

糖尿病は、インスリンの機能や分泌量の低下により血糖が高くなる疾患です。糖分は細菌の栄養源となり、歯周病菌が増え歯周病のリスクが高くなります。また、近年の研究では歯周病になると糖尿病が悪化することもわかっています。
これには歯周病菌が出す内毒素(ないどくそ)が関与しているといわれています。

内毒素には、炎症反応を引き起こすTNF–αと呼ばれる物質の産生を促す作用があります。
TNF–αの作用の一つにインスリンの作用を抑制する機能があります。
TNF–αが大量に産生されるとインスリンの機能が障害され、血中の糖分が細胞に取り込まれにくくなります。
その結果、血糖値が上がり糖尿病が悪化します。

誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)

通常であれば、飲み込んだ食べ物は食道に入ります。
しかし、加齢などで嚥下に関連する筋肉が低下すると食べ物が気管に入ることがあります。
食べ物が誤って気管に入ることを誤嚥といい、誤嚥した物が原因で肺炎が起こる疾患を誤嚥性肺炎と呼びます。

歯周病に罹患していると誤嚥性肺炎になりやすいといわれています。
これは、歯周病菌が食べ物に付着しやすく、歯周病菌が付着した食べ物を誤嚥すると肺に炎症が起こりやすくなるためです。

感染性心内膜炎

感染性心内膜炎は心臓を構成する弁や膜に炎症が起こる疾患です。
歯周病の状態が長引くと、歯周病の原因菌が血管内に入ることがあります。
これにより、歯周病菌が心臓の弁や膜に感染し、炎症を引き起こすことがあります。

脳梗塞

脳梗塞は、脳の血管が詰まって血流が途絶える疾患です。
脳への血流が低下すると脳の神経細胞が死んでしまい、後遺症が残ったり命を落としたりすることがあります。
歯周病菌が血管内に入ると、動脈硬化を引き起こし血管が狭くなり、脳梗塞を引き起こすリスクが高くなります。

低体重児早産

妊婦が歯周病に罹患していると、低体重児早産を引き起こすことがあります。
早産とは、妊娠37週より前の出産のことで、低体重児とは2500g未満の赤ちゃんのことを指します。
明確な機序は明らかになっていませんが、血管内に入った歯周病菌が胎盤から侵入し細菌感染を引き起こすことにより低体重児早産が起こるといわれています。

歯周病の予防と治療

ここまでで歯周病と全身疾患の関連について説明しました。以下では、歯周病の予防と治療について説明します。

歯周病の予防

丁寧なブラッシング

歯周病の主な原因は、プラークが歯に付着することによる歯ぐきの炎症です。
そのため、歯周病を予防するためには日頃から丁寧なブラッシングを心がける必要があります。

歯周病予防に有効なブラッシングとしては、バス法があります。
バス法は、ブラシの毛先を歯ぐきに対して45度に傾け、歯を磨く方法です。
このように磨くことで、歯周ポケットの中を磨くことができ、歯周病を予防することができます。

口腔ケアグッズの使用

歯と歯の間や歯の裏側は歯ブラシで磨くことが難しいため、磨き残しが多くなります。これらの部位への磨き残しを少なくするためには、口腔ケアグッズの使用が有効です。
歯と歯の間を磨く際は、歯間ブラシやフロスを使用しましょう。

歯間ブラシとフロスの明確な使い分けはありませんが、歯と歯の間の隙間が狭い場合はフロスを、隙間が広い場合は歯間ブラシを使用しましょう。

歯と歯肉の境目や奥歯の裏側などを磨く場合は、タフトブラシの使用がおすすめです。
タフトブラシは、毛先が一つにまとまった歯ブラシで、歯ブラシでは磨きにくい細かなところを磨くのに適しています。

ブラッシング指導を受ける

日頃のブラッシング方法を改善するために、ブラッシング指導を受けることもおすすめです。歯科医院では、磨き残しの有無を確認するために、磨き残しのある歯の染め出しを行うことができます。

歯の染め出しでは、実際に患者さま自身でブラッシングを行った後に染め出しを行い、磨き残しがある部位が赤く染まります。
磨き残しがある部位をどのように磨けば良いかを歯科衛生士や歯科医師から指導を受けることで日頃の磨き残しを少なくすることができます。

定期的な歯のメンテナンス

プラークが歯に付着した状態が続くとプラークが固くなり歯石になります。
歯石が歯に付着すると汚れが溜まる原因になります。
また、歯石は歯に強固に付着するため、ブラッシングで取り除くことはできません。

そのため、定期的に歯科医院に通院し、歯石取りを受ける必要があります。
歯科医院で行う歯石取りは、歯の表面に付着した歯石を取るスケーリングと歯周ポケット内に付着した歯石を取るSRPの2種類あります。

スケーリングは、超音波の機械を使い歯石を除去する方法です。
SRPはスケーラーと呼ばれる鎌のような器具を使って歯石を取る方法です。
歯科医院では、これらの方法で歯石取りを行い歯周病の予防をします。

歯周病の予防

禁煙

喫煙は、歯周組織の血管を収縮し、免疫反応を抑制する作用があるため歯周病の原因になります。
そのため、禁煙は歯周病の予防として有効です。

歯周病と喫煙

歯周病の治療

次に歯周病の治療について説明します。
歯石取りなどの専門的な歯のメンテナンスで歯周ポケットの深さが改善しない場合は、歯周外科治療を行う必要があります。
歯周外科治療には、大きく分けて2つあります。
1つは、スケーリングやSRPで取ることのできない部位に存在する歯石や汚れを取り除く手術です。
もう1つは、歯周病によって溶けた骨を再生する手術です。
この項目では、代表的な歯周外科治療であるフラップ手術と歯周組織再生療法について説明します。

歯周病の治療

フラップ手術

歯のメンテナンスで取ることのできない歯石を歯周外科治療で取り除くことがあります。
この代表的な治療としてフラップ手術があります。フラップ手術は、以下の手順で行われます。

  1. 局所麻酔

    フラップ手術では歯ぐきを切開する必要があります。そのため、フラップ手術を行う前に局所麻酔を行います。

  2. 歯ぐきの切開・剥離

    局所麻酔薬が効いたことを確認し、歯ぐきの切開を行います。切開後、歯全体が見えるように歯肉を開きます。

  3. 清掃

    歯の表面に付着している歯石などを取り除き、歯の表面をきれいにします。

  4. 縫合

    清掃の終了後、歯ぐきを縫合し終了です。
    手術をしてしばらくは、痛みが出ることや感染することがあるので痛み止めと抗菌薬を服用します。

歯周組織再生療法

歯周病が進行すると歯を支える歯槽骨が溶け、歯が抜ける原因になります。
溶けてしまった骨を再生する治療方法として、歯周組織再生療法があります。
歯周組織再生療法は以下の手順になります。

  1. 局所麻酔

    歯周組織再生療法は、歯ぐきを切開するため局所麻酔を行います。

  2. 歯ぐきの切開・剥離

    歯ぐきを切開し広げることで、歯槽骨が溶けた部分を露出させます。

  3. 清掃・薬剤の塗布

    骨を誘導する薬剤を塗布する部位の清掃を行います。清掃後、薬剤を塗布します。

  4. 縫合

    薬剤の塗布後、縫合を行い終了です。

まとめ

今回は、歯周病が全身に及ぼす影響と歯周病の予防や治療について解説しました。
歯周病は、さまざまな疾患と関係があるといわれています。例えば、歯周病の原因菌はTNF−αと呼ばれる炎症物質の産生を促進します。TNF−αは血糖値を下げるインスリンの作用を抑制し、血糖値を下がりにくくなるため歯周病が悪化します。

また、歯周病は糖尿病以外にも脳梗塞、誤嚥性肺炎などさまざまな疾患に関与しています。
近年、歯周病は歯だけではなく多くの疾患に関与していることがわかってきました。
定期的な歯のメンテナンスを受け、歯周病を予防し、お口の中だけではなく全身疾患もしっかり予防しましょう。

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